· 

ダイヤモンドの話

 ウィリアム・ダルリンプルの新著(共著)『コ・イ・ヌール』の邦訳が出たというので、すぐ買う。コイヌールは古代テルグ地域で産出されたといわれるダイヤモンドで、現在イギリス王冠を飾っています。

 

 コイヌールには三つの「世界一」がついています。世界で最も大きく(もう抜かれたけれど)、最も古く、最も有名・・・有名なのは、その所有者に必ず不幸が訪れるという数々の「血塗られた」伝説のせい。だから女王はこの王冠をかぶらないのだそう。

 

 コイヌールの名声が世界の津々浦々にまで広まっていたことは、一見インドと関係なさそうなチェコで、創業18世紀にさかのぼる老舗文具メーカーの名前が「コヒノール」ということからも想像されます。ただし、ストーリー探しに余念のないはずの映画界でほとんど題材にされないのは、もしかすると「伝説」のせいかも・・・。

 

 それで思い出したのは、昔買ったケヴィン・ラシュビー著『女王陛下のダイヤモンド』。原題は「光の山を追って」(Chasing the Mountain of Light)で、「光の山」はコイヌール(ペルシャ語)の英訳。ハイダラーバードやアーンドラ地方が出て来る、日本語で読める数少ない本のひとつ。

 

 ダイヤモンドではないけれど、日本人作家の本も。アーンドラからオディシャにかけての地域を舞台に繰り広げられる壮絶な水晶ビジネスを描いたフィクション、篠田節子著『インド・クリスタル』は、第10回中央公論文芸賞を受賞。

 

 この手の本では、雰囲気の演出を狙ってか、現地が実際以上にミステリアスに、ロマンチックに、怖ろしかったり不可思議だったり、、、という感じで描かれる傾向があり(これをオリエンタリズムと云ふ)、それが失敗しているとガッカリだけれど(ダルリンプルの『コ・イ・ヌール』がそうでないことを祈る)、面白いことも書かれています。たとえば、「私は明日テルグ語を学びます」は確かに役に立つ表現ですね!(笑)

『女王陛下のダイヤモンド』より